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水族館の仕事を通して見えてくる、長崎の海のリアル。

水族館の仕事を通して見えてくる、長崎の海のリアル。

長崎ペンギン水族館 学芸員 大塚 摩耶子さん

長崎市民の憩いの場。長崎ペンギン水族館。海との関わりが深い水族館の学芸員さんに、ゼロカーボンへの取り組みや、海の環境状態についてお話を伺いました。

長崎ペンギン水族館 学芸員
大塚 摩耶子さん

長崎生まれ育ち。静岡県で海のことを学ぶ。水族館の学芸員は「雑芸員」と別名がつくほど守備範囲が広く、なんでもやる。展示用の海の生き物を漁師さんとともに自ら船に乗り込んで捕獲しに行くことも。

豊かな長崎の海。

ー大塚さんは学芸員さんなんですね。

大塚さん:
はい。美術館、博物館と同じように水族館にも学芸員という仕事があります。海の生き物の生態観察や調査、捕獲、飼育管理、伝わりやすい展示づくりなど、たくさんの仕事があります。また、水族館は社会教育施設でもあるので、周辺の幼稚園や学校で出前授業をしたり、水族館独自のプログラムを作って、海の生き物のことを知ってもらう機会を設けることもあります。

ー「長崎の海は豊か」とよく言われますが、それについて詳しく教えてください。

大塚さん:
長崎県は海に囲まれています。海岸線(約4195㎞)は北海道に次いで第2位、島の数(971)は全国第1位で、日本にある島のうち14.2%が長崎の島です。複雑に入り組んだリアス式海岸や穏やかな内湾と東シナ海に臨む外洋は水深2000mの深海の沖縄トラフにもつながっています。見渡せば、磯や干潟や内湾、外洋などいろんな表情の海がすぐ間近にあります。美味しい魚介がとれるだけでなく、釣りや海水浴や磯遊びなど、海の恵みの恩恵を受けることができる環境がすぐそばにあることが素晴らしいと思います。私自身、魚を食べること、見ること、磯や干潟で遊ぶことが大好きで、長崎の海の豊かさに感謝!という気持ちです。

ーペンギン水族館の入り口にある大きな水槽には、たくさんの種類のお魚がいますね。

長崎県の漁獲量は北海道、茨城県についで、全国第3位(R3年度統計)。とれる魚の種類では250種を超えるともいわれています。量も種類も豊かです。長崎の海は、黒潮から分岐した対馬海流が入ってくるため、様々な魚が回遊してきます。また、目の前に広がる東シナ海は太陽の光が十分に届く深さに大陸棚が広がっているため、魚のエサとなる植物プランクトンが豊富であることから好漁場となっています。県外の人が長崎に来た時に、どの季節であっても旬の美味しい魚介を紹介できるのでうれしいです。

長崎県が全国1位(R3年度統計)の漁獲量を誇る魚は、タイ類やアジ類、イサキ、タチウオなど私たちの食卓にのぼる魚が実はたくさんあります。この大きな水槽にもアジ、鯛・・。この展示を見て「美味しそう!」と言われるのは最高の褒め言葉です。豊かな長崎の海を象徴していると思います。

ー豊かな海を守るために、水族館で行われているゼロカーボンや環境に関する取り組みを教えてください。

大塚さん:
ペンギン水族館ではこんなことに取り組んでいます。

●再生可能エネルギー使用(2020年10月~)
CO2の削減にもつながるバイオマス発電を利用した地産地消型のエネルギーに切り替え、すべて再生可能エネルギーを使用しています。

●バイオマスプラスチック製レジ袋使用、レジ袋有料化(2023年4月~)

●PP表面加工をしない開館20周年記念写真集作り(2021年)
パンフレットで多用される、PP加工(ポリプロピレンフィルムで紙をコーティングする加工)。しかしリサイクルできなくなるので、PP加工そのものをやめました。

開館20周年のパンフレットは、PP表面加工をやめ、環境負荷の少ない仕様にした。

●再生プラスチックで作ったボールペンを記念品に採用
開館20周年事業の記念品のボールペンは、環境に配慮した材料にしました。

●給水スポットの設置 2023年長崎市の事業により設置
マイボトル運動の推進、脱プラのために設置しました。  

●照明設備のLED化(現在、取り替えている途中)

●海の生き物を通した環境学習プログラムの提供

ーたくさんのことを実施されているのですね。

大塚さん:
水族館だと海の関係のものに注目してしまいそうですが、SDGsの目標は全て絡み合っています。水族館や動物園向けに、具体的アクションが掲載されているガイドブックがありますので、これをヒントにしながら今後も取り組んでいきたいです。まだまだこれからです!

調査で知る、海の現実。

ー豊かな長崎の海ですが、お仕事を通して問題や課題にも向き合われていると思います。

大塚さん:
はい。展示する魚類を採集しに行くと、大量のゴミに遭遇します。海岸にも海にも、大量のゴミがあります。水族館では毎月クラゲの調査を行なっています。クラゲは流れに身を委ねて生きていて、ゴミも同じです。ゴミに混ざってクラゲを探すような感じです。

大塚さん:
あと、漂着したウミガメの解剖の時、必ず胃の中からプラスチックごみがでてきます。

解剖したウミガメから出てきたビニール。

ー長崎の海でもそうなのですね。なんだか外国の話のような気がしていました。

大塚さん:
そうなんです。まず、長崎の海にウミガメがいることを知らない方も多いかもしれません。以前はアカウミガメが産卵に来ることも定期的にありました。柿泊の海岸、野母崎の脇岬や高浜の海岸、雪の浦海岸、人工の結の浜でも。50年以上前の記録では、水族館近くの海もあります。
ですが今は、海岸のゴミや海岸の整備に産卵できる場所が少なくなってきています。

「以前、孵化のタイミングに立ち会ったアカウミガメなんですよ!」と大塚さん。
カメは人懐こく、人を見分けて近寄ってくる。

ーそうなんですね。ウミガメに産卵場所として選んでもらえる長崎の海でありたいですね。ゴミで産卵する場所がないなんて残念すぎる話です。

大塚さん:
野母崎の脇岬は、2~3年ごとに産卵に来てくれたことがありました。だから、またウミガメが来てくれる綺麗な浜にしたいと、ビーチクリーンに励む住民の方もいます。

ービーチクリーンだけでなく、プラごみを出さないことも巡りめぐってナイスアクションにつながりますね。

大塚さん:
そうです。ゴーストギア、ゴーストフィッシング※という言葉を聞いたことはありますか?釣りを楽しむ方も多いと思いますが、釣り針を持っていかれたり、釣り糸が切れたりして、生き物を苦しめようとしているわけではなくても、結果的にそうなってしまうこともあります。もちろん、ゴミの放置などはいけません。
陸で捨てたゴミが転がって川や海に入ってしまうことも多いはずです。海と陸は繋がっています。

※紛失や放棄された漁具が、そのまま海中に残って海洋生物を傷つけてしまうこと。「幽霊漁業」と言われることもある。

【長崎県内で発見】ルアーが刺さった鳥。(写真提供:野母崎自然塾)

ー陸上での振る舞いが海に伝わるとしたら、陸のナイスアクションも海にとって良い影響にかわれるということですよね。

海にいいことがしたい時は?

ー海と陸はつながっているということがよくわかったのですが、やっぱり海にダイレクトに何かしたいと思った時にできることはありますか?

大塚さん:
長崎の海のことをまずは知っていただけると、何ができるか考えやすくなるかもしれません。水族館でたくさんの海の生き物と触れ合っていただくこともその一つです。

また、水族館では幼稚園~高校生を対象にした海の生き物を取り巻く環境や現状についてお伝えする教育プログラムや、海の日放流会、特別企画展などのイベントも実施しています。まずはそこに参加してみませんか。楽しみながら気づきや学びがあると思います。

ー知ること、学ぶことは、環境へのナイスアクションを習慣化する際にとても大切ですよね。

大塚さん:
「長崎の海」がみなさんにとって身近であること、「長崎の海」からの恩恵をたくさん受けていることをいつでも感じられる環境であってほしいと願っています。

ー長崎の海の豊かさも、問題も、両方知ることができるお話をありがとうございました。豊かさを守れるナイスピープルでありたいです。

ブルーカーボンを知っていますか?
森の木々がCO2を吸収する「グリーンカーボン」と呼ばれるのに対し、海の藻場や海藻(ワカメ、コンブなど)が同じような働きをする「ブルーカーボン」として注目を浴びています。ブルーカーボンの主要な吸収源としては、藻場(海草・海藻)や干潟等の塩性湿地、マングローブ林があげられ、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれています。
「ブルーカーボンについてはまだ世間一般に浸透していないイメージがあると思いますが、長崎県内では、五島市の磯焼け対策の取り組みや地元大学のブルーカーボン評価研究の取り組みが期待されており、今後の動きに注目したいと思っています」と大塚さん。