NICE PEOPLE
みんなで進める環境への取り組み―稲佐山観光ホテルのSDGs実践
長崎・稲佐山観光ホテルでは、SDGs推進委員会を立ち上げ、従業員全員で取り組む環境活動を進めています。食材の再利用やフードロス削減、廃棄物やエネルギーの節約など、日々さまざまな工夫が行われています。


稲佐山観光ホテルの皆さん




―会社をあげてSDGsに取り組んでいるといえば、稲佐山観光ホテルさんとの話をあちこちで耳にしました。取り組みを始めたきっかけを教えてください。
河添さん:
被爆地長崎のホテルとして、創業者が掲げた「観光業を通じて、世界平和に貢献する」という信念を大切にしてきました。その思いは、SDGsと非常に親和性が高いものでした。
近年、地球環境の面からも世界的にSDGsの広がりがある中で、ホテルとして具体的な取り組みを進めています。

● お客様に対し、環境に配慮した形で、質の高いサービスをご提供すること
● 従業員が持続的に働ける、やりがいのある職場であること
● 地域社会に根差し、平和の尊さと地域の魅力を国内外に伝えていくこと
この3項目を掲げ、環境負荷を減らすだけでなく、従業員の働きがいや地域社会の発展、平和教育などを包含した「総合的な持続可能性」に取り組んでいます。
加えて、4つの重要課題を設定しました。
①For People(人が笑顔になる)
②For Nagasaki(長崎が笑顔になる)
③For Earth(地球が笑顔になる)
④For Peace(世界が笑顔になる)
です。
―どのように活動されているのですか?
河添さん:
2021年7月から社内研修を実施し、同年にSDGs推進委員会を立ち上げ、本格的に活動を始めました。
今期は16名で運営中です。各部署から選出されたメンバーで構成されていて、現場の意見を吸い上げられるようにしています。
社長が委員長を、管理本部長が事務局長を担う体制です。毎月の委員会や勉強会を通じて全社的に取り組んでいます。
一部のスタッフだけでなく「みんな」で理解を深めることに、こだわっています。
委員会は年1回の入れ替え制で、継続的に新しい視点を取り入れています。成果は社内で共有され、現場へフィードバックされます。
ただの会議にせず、実際の活動やサービスに生かすことができる体制に意味があると思っています。


―全員で理解を深めるために、どのような工夫をされていますか。
河添さん:
SDGsアワード制度を導入し、各部署の優れた取り組みを表彰しています。また、ホテルはシフト制で勤務時間がそれぞれ違うため、集中研修期間や動画教材を活用し、多忙なホテル業務の中でも全スタッフがSDGsの重要性を理解し、実践できるよう工夫しています。
地道な活動も今年で5年目となり、スタッフ一人一人のSDGsへの認識が確実に深まりました。スタッフ自らSDGs活動の提案が出るようになりました。
―社長が委員長を務めていることも印象的です。どのような体制で進めているのですか?
河添さん:
社長は活動の主体を社員に任せており、運営や取り組みの判断も基本的に社員が行っています。必要に応じて社長に報告する形で進めていますが「やりたいことはどんどん実施してよい」というスタンスで後押ししてくれています。
そのため、1〜2年目の若手社員も積極的に意見を出し、自分たちの発想を形にできる環境が整っています。

―ゼロカーボンに関しては、どんな取り組みをされていますか?
山本さん:
海洋プラスチック削減のため、アメニティを必要なだけお部屋にお持ちいただく「バイキング方式」を導入し、宿泊を通した意識改革にもつなげています。このことは従業員の労働環境の改善にもつながっています。

―お部屋に人数分設置するよりも、バイキング方式の方がプラごみは減っていますか?
山本さん:
はい。その一環として「修学旅行生に対する歯ブラシ持参奨励プロジェクト」も実施しています。マイ歯ブラシを持参いただくことで、プラごみを削減する取り組みです。
以前は客室ごとにアメニティを人数分設置しており、特に修学旅行の際には1部屋に5セットずつ準備していました。そのため連泊時に使用状況が分からず、未使用でも袋が潰れていれば廃棄するなど、多くのごみが出ていたのです。現在はバイキング方式に切り替えたことで無駄な廃棄がなくなり、大幅に削減できています。


多いときには600名の生徒さんが宿泊されるため、歯ブラシだけでも1日600本分の削減につながります。
令和4年度には合計で16,000本以上の歯ブラシを持参いただきました。
―16000本!素晴らしい実績ですね。修学旅行生には事前にどのようなお願いをしていますか?
山本さん:
修学旅行担当営業が、各旅行会社や各学校等へコンタクトを取る際に、その都度ご案内しております。
―他に取り組まれていることはありますか?
山本さん:
はい、節電にも力を入れています。チェックアウト後の10時以降は、客室や廊下の電気をすべて消し、チェックイン前に改めて点灯するようにしています。また、館内には節電のお願いを記したPOPも設置しています。
空調面では、エアコンを壊れる前に入れ替えることで、電気代が半分になり、CO₂排出量も約3分の1に削減できました。初期投資はかかりますが、ランニングコストを考えると十分に回収できる取り組みです。

社員の皆さんにもお話を伺いました。
―ホテルといえば「食」に関わるSDGsは外せないと思います。特に成果を上げていることを教えてください。
濵本料理長:
魚のあら(頭や骨、内臓など)の再利用に特に力を入れています。魚市場にあらを持ち込むと、飼料や肥料として再資源化されるんです。当ホテルでは、これまで廃棄していたあらを年間5トン以上魚市場に持ち込み、循環させています。




―5トン以上も!すごいですね。社内のインパクトも大きいでしょうね。
濵本料理長:
そうした活動をしていると、自然とフードロス削減にも取り組もうという意識も強くなるもので、顧客提供で余ったご飯を冷凍保存し従業員食堂等で利用するなど、廃棄を減らしています。



調理場にはサイネージを設置し、宿泊客数をリアルタイムで確認できるようにすることで、必要な量を仕入れ、適切に調理しています。

―フードロスに関する取り組みは、どのように決定したのですか?
濵本料理長:
実際に「魚のあら再利用」や「食堂での冷凍ご飯活用」は調理スタッフの声から始まったものです。現場主導で実施項目を決めることで、ホテル全体の持続可能性向上につながり、スタッフの意欲や働きがいを高める効果も生んでいます。

―フードロス以外の取り組みもされていますか?
濵本料理長:
廃油の回収も続けています。週に1回、回収してもらって、石けん製造などに使ってもらってるんです。もう10年以上続いているんですよ。
―そんなに長く!ほかにもありますか?
濵本料理長:
調味料のペットボトル削減です。しょうゆは以前1.8リットルのペット容器を大量に使っていましたが、業務用の大型ボトルに切り替えました。
SDGs委員会を立ち上げて、最初の委員会で提案し、すぐに実現しました。

―宿泊やレストラン以外にも、宴会や大人数での食事の場で工夫されていることはありますか?
大瀬良さん:
団体宴会では「3010(さんまるいちまる)運動」を取り入れています。最初の30分は席を立たずに食事をしていただき、最後の10分も着席してしっかり召し上がってもらうようにご案内しています。

―なるほど、それでフードロスを減らすんですね。
大瀬良さん:
はい。宴会では挨拶やお酌で食事が手つかずになることも多いので、この声かけで食べ残しを減らす効果があります。
―他にも無駄を減らす工夫はありますか?
坂本さん:
印刷物の電子化ですね。複合機をPCと連携させて、出力前に画面で確認できるようにしました。誤印刷をすぐキャンセルできるので、紙の無駄が1割ほど削減できています。
複合機を1台入れ替えたことで、紙やインク代を含め年間約40万円のコスト削減にもつながっています。
勤務表も紙からデジタルへ移行し、管理がぐっと便利になりました。

―委員会としても部署横断で進めているそうですね。参加されて実感したことはありますか?
大瀬良さん:
以前は部署ごとにテーマを持って活動していたのですが、今は全体で取り組む形に変わりました。部署を越えた交流が増えて、連携しやすくなったと感じています。
坂本さん:
普段関わりの少ない部署とも顔を合わせられるので、いざという時に話しやすい関係ができていますね。業務のやりやすさにもつながっています。

―環境への効果だけでなく、社内のつながり強化にもなっているんですね!
最後に河添さんに今後の取り組みについて伺いました。
―観光地・長崎市において、宿泊事業者が足並みを揃えてSDGsに取り組むことは可能だと思われますか?
河添さん:
各社様々な考え方やサービスのあり方がありますので、完全に足並みを揃えて同じことを同じようにすることは難しいと考えます。ただ、その中でも共通の課題に対しては、協力できる部分があるのではないかと感じています。
―今後の取り組みや目標について教えてください。さらなるゼロカーボン実現のプランがあればぜひ教えてください。
河添さん:
稲佐山周辺には多くのホテルがあり、それぞれが送迎バスを運行しています。ただ、人が満席でない状態でもバスが走っていることがあり、現状では具体的な取り組みやホテル同士の連携はまだありません。ですが、個人的には、うまく協力し合うことで改善できるのではないかと考えています。今後、ホテル間での連携や効率化を進められないか、模索していきたいと思っています。

こんな取り組みも!
稲佐山観光ホテル「折り鶴プロジェクト」
2022年から始めた「折り鶴プロジェクト」。毎年8月9日に、来館されたお客様に折っていただいた鶴を束ねて、平和公園に奉納しています。今年は約4,000羽を集めることができました。
今年は被爆80周年と創業85周年に合わせて、長崎出身の作家さんデザインのオリジナル折り紙を作りました。館内の売店で販売し、売上の一部をがん患者支援に寄付しています。


