NICE PEOPLE
誰が何と言おうと、自分の中で最高と思えるものを提供したい。
眼鏡橋をはじめとする古い石橋が数多く架かる中島川。万屋町のその川沿いに佇むシックなお店には、店主である平野さんがプロデュースしたものから、国内外のこだわりある雑貨、一点ものの商品まで、幅広く取り扱われています。その多くに共通していたのが、「社会や自然に配慮された商品」であるということ。そのお店や平野さんの考え方について、長崎大学経済学部山口研究室の学生2人(黒木、近藤)がお話を伺いました。
セレクトショップ ノボリクダリ
平野澄人さん
長崎大学経済学部山口研究室
黒木・近藤
ー多種多様な雑貨や食べ物、衣類などがありますが、どれもチェーン店の雑貨屋さんでは見ないものばかりでワクワクします!このかわいいラジオが目を惹きますね。
平野さん:
ありがとうございます。このブランドはラジオだけではなく、文房具なんかも作っているんですよ。
ブランド名:magno(マグノ)
インドネシア・ジャワ島の西方にあるバンダング工科大学でプロダクトデザインを学んだデザイナー、シンギー・カルトノによって2003年つくられたブランド。
インドネシアでは、大切な資材とされる木々の多くは無計画に大量伐採され、そこに暮らす人々の十分な利益を残すことなく海外に輸出されている。magnoはこれに対し、この国で50年かけて育ったジャワ黒檀やマホガニーを素材に、無駄なく使用した「小さくて機能的な木工製品」づくりを目的としている。組み立ても現地の人々で行うことで、素材の有効利用と雇用機会を創出させているのだ。製品は従来のいわゆる「民芸品」的な製品とは一線を画す、非常に現代的な製品の形状であり、細部に渡って考えぬかれ機能的に磨き上げられたデザインが大きな特徴である。
2007年の2月からは売上げの2%を植林活動支援として寄付を行い、森や木を守る活動をしている。
HP:magno | Less wood, More work
平野さん:
これらはインドネシアで作られたものです。このブランドのものづくり全体のデザインに惹かれました。自分とこの地域の強みを磨いて、ものづくりするのって素敵だなと思って。いろんな国や地域がそんな風になって、お互いに地球上で補完し合いながら循環させるといいなと思いますね。なんか壮大な話になってしまいましたが(笑)
ー確かに、カッターなどは100均にも売っていますが、日々使うものだからこそ、買い手が幸せになることに付加価値を感じますよね。買い物は投票だ、という考え方がありますが、商品の背景を知り、そこに価値を感じてお金を払うこと、これからの社会の当たり前になってほしいです。
平野さん:
ただ、その価値があったとしても、使いづらいものだったら「ちょっと残念だな」で終わっちゃいますよね。この商品の凄いところは、デザインとそのもののクオリティが高いところです。木だからこその滑らかさがあって肌ざわりが良く、経年変化で色が変わるんですよ。だからこそ、愛着がわいて、長く大切に使おうと思うでしょう。
ーどんどん自分だけの唯一無二のものになっていく感じがして、良いですね。
平野さん:
そうですよね。他にもこのおもちゃなんかも面白いですよ。
平野さん:
デザイナー菅野大門氏による「tumi-isi」というプロダクトです。子どもの知育玩具としても、オブジェとしても使えます。数が増えれば増えただけ、楽しいことが出来るんですよね。これ、ブロック一つひとつ手作業で、色も形も同じものがないんです。奈良の吉野杉と檜の間伐材を使っているんですけど、商品の品質にこだわって加工から検品まで、全て奈良県の東吉野村で行い、地域の産業を守りつつ、雇用を生み出しています。2021年にはGOOD DESIGN賞も受賞しているんですよ。
ーこのおもちゃだったら、子どもの想像力も育みそうだし、その子が大人になったらインテリアとしても使えて、持続的ですね!
平野さん:
ここは壊れても修理やメンテナンスもしてくれるので、長く愛着を持って使うことができるおもちゃなんですよ。
ーとてもいい取り組みですね!ところで、紹介していただいたように、このお店には、環境に配慮されながらもデザイン性が高く、面白い商品がたくさんある印象ですが、そういった社会問題や環境問題に対する関心が強くあるのでしょうか?
平野さん:
特別関心があるというより、今生きている皆の問題だろうからどんなニュースでも気になります。現在直面している社会や環境の問題は、誰か、何かに導かれたのではなく、僕たち一人ひとりの小さな選択の積み重ねによって引き起こされたものだと思っているんです。
ーそういった考えが、このお店の幅広い品ぞろえを実現させているのでしょうか?
平野さん:
うーん、どうでしょうか(笑)ただ、このお店では、僕の知る限りの知識で、僕の動ける範疇の中で出会い、「いいな」と思ったものだけを置いています。それはデザインやものづくりに対する姿勢、品質など、これは誰が何と言おうと最高で、どこに出しても恥ずかしくないと思ったものを取り扱っています。
ーそうなると、それぞれの分野の個性あふれる作家さんのものが多いのでしょうか?
平野さん:
実は、作家さんのものはあまり置いていないんです。大量生産・大量消費が問題になっていますが、僕は大量生産する上で、取捨選択して、物が研ぎ澄まされていくみたいなところがすごいなって思っているんですよ。量産するビジネスとして、ものづくりをしようとすると、そこで何を残し、省くのかを吟味しますよね。個人的には、その吟味の先で生まれた商品を見てみたいと思っています。
ー大量生産は悪いものだ、と思い込んでいた気がします。
平野さん:
もちろん、使わないと分かっているのに、作りすぎてしまうのはおかしいと思います。簡単な話じゃないでしょうが、これまで蓄積された技術やノウハウを基に、適量生産に切り替えたら、そんなにゴミも出ないし大分減ると思います。加えて、製品の原料についても考えてみること。例えば、再生紙やバイオマスプラスチックなど、とてもこだわって作られていて、「こういうのが普通じゃん?」っていう時代になってくれるといいじゃないかなって思うんですよね。方向性として正解かどうかは僕にも分からないですが、僕が知っている情報だけでいうと、いろんなものづくりが環境や人に当たり前に配慮するっていう目的も併せ持つと、今よりもいい世の中になるんじゃないかなって思っています。
ー普段の生活中での循環で言うと、ノボリクダリさんでは「ナイスパス」を導入されていますが、お客さんの反応はどうですか?
平野さん:
多くのお客さんが「かわいくていいね」って言って、喜んで持って帰っている感じですね。無理せず、振りかぶってやっている感じじゃないから、やりやすいですね。
ー最後に、どんなお客さんにお店を訪れてほしいですか?
平野さん:
いろんな人に来てほしいなと思っています。僕が置いている商品のどこかに共感したり、何か気づきがあったりっていう価値の共有ができたらうれしいです。素晴らしい商品たちのストーリーとか品質とかの凄さを共有したいと思っています。それを買ってくれることが、共有したことだろうから、僕とは違う角度で刺さってくれたとしても嬉しいです。
ーたくさんの質問に答えていただきありがとうございました!
平野さん:
いえいえ、こんな風に学生さんが興味を持ってくれることがとても嬉しかったです。頑張ってくださいね。
学生のあとがき
お話を伺う中で、商品一つひとつに平野さんの思いやストーリーが込められており、心惹かれる瞬間が何度もありました。特に印象的だったのが、「世界に出しても恥ずかしくないもの」を自信を持ってお勧めできる商品としてセレクトしているという平野さんの熱い思いでした。今回のインタビューを通して、ノボリクダリさんのようなお店で消費をしていきたいと思ったのと同時に、長崎市民の方々が環境やものづくりをしている人たちに思いを馳せて、消費行動について考える機会を作るために、今後も広く発信していきたいと強く感じました。
インタビュアー:長崎大学経済学部山口研究室
この研究室では、誰もが豊かに暮らし続けられる地域社会をつくることを目的にしています。地域経済学を基に、学内外で知識の習得から実践にいたる研究活動を展開することで、遠い時間、広い空間、多様な人を想う心と考える頭を持って行動できる人材の育成を目指しています。