NICE PEOPLE

「クローゼットをスッキリさせたい。」そんな思いから始まったSDGsな取り組み。

「クローゼットをスッキリさせたい。」そんな思いから始まったSDGsな取り組み。

カリオモンズコーヒー店主 伊藤 寛之さん

皆さんのご自宅のクローゼットに、眠っている紙袋はありませんか?買い物の時にもらった紙袋。まだまだきれいで捨てるには惜しい。いつか使おうと思って保管していても出番がなく、結局、大掃除の時に捨ててしまう。そんな経験をした方は多いと思います。
そんな紙袋を再利用するプロジェクト「NICEPASS(ナイスパス)」が、長崎のコーヒー店カリオモンズコーヒーから始まり、全国に広がっています。

伊藤 寛之さん

カリオモンズコーヒー店主。地球の裏側まで出かけ、生産者から直接豆を買い付ける。2021年に家庭に眠る紙袋を店舗で回収し、店舗で再利用するプロジェクト「ナイスパス」をスタート。

−NICEPASSを始めたきっかけは「エコなことをしよう」という思いからではなかったそうですね。

伊藤:
そうなんです。家のクローゼットに、大量の紙袋がありまして…いつか使うかもと取っておいたものですが、どんどんたまって収納スペースを圧迫していました。
一方で、お店では、紙袋に商品を入れてお渡ししています。
お店では新品の紙袋を仕入れている一方で、消費者になった時には同じく新品の袋を受け取って、家に帰ったら捨ててしまっている。そのことに小さなストレスや矛盾を感じていました。そこで、お店の独自のプロジェクトとして紙袋の再利用に取り組んでいました。
その取り組みをアパレル経営をされている代表の方が知ってくださり「いい取り組みだからいろんなところに導入できるようにパッケージ化(仕組み作り)しましょう」ということで声をかけていただきました。パッケージ化にあたり「NICEPASS(ナイスパス)」という名称で広げることになりました。
始まりは、捨てるくらいなら使おうよ、という気軽な意識です。持ち運べるならなんでもいいよ、という肩肘張らないスタートで、環境を守るために…とは言わないようにしています。

ー消費者側に立った時、購入店の名前やロゴマークが入った紙袋で持ち帰ることに満足することもあると思います。ナイスパスを広げるには、まずはお店のスタッフさんがナイスパスのことを理解して、お客様にどのように伝えるかが肝のように思います。スタッフさんにはどのように伝えられましたか?

伊藤:
もともと、社会の課題とか問題についてアクションをする、できる形で行う、という社風がありました。ナイスパスの提案をした時にも、すんなり受け入れてもらったと感じます。
新品の紙袋を仕入れて、家に持って帰ってストックされて……いつか捨てられる。その先がないのであれば、もう一度店に戻ってくる仕組みを作ればお店も助かるし、消費者側も捨てるストレスや罪悪感がなくなる。みんなハッピーなんじゃないかという話はしましたし、スタッフのみんなも共感してくれました。


ーカリオモンズコーヒーではお客様の認知はどの程度ありますか?

伊藤:
カリオモンズコーヒーでは、ギフト需要の時以外はナイスパスの袋でご提供しています。「ナイスパスの袋でいいよ」というお客様がほとんどです。
中には、コーヒーを買わなくても紙袋だけ持ってくる方もいらっしゃいます。家に溜まったからと持ってきてくださる方も増えたし、ナイスパスという言葉も周知されているのではないかと思います。
ナイスパスのバッグを持っている方を出勤前に街中で見かけたことがあり、嬉しかったです。こうして目に触れて、あの紙袋は何だろう?と思っていただくことも周知になります。
市民の皆さんに知っていただいて、他のお店でも紙袋がどんどんパスされていく状況を作り出せたらと思います。

ーナイスパスは3年目に突入しました。全国で150社以上が導入しているそうですね。全国放送でも取り上げられていましたが、手応えはいかがですか?

伊藤:
正直、もっと広がるかと思っていました。もっと自分たちがPRを頑張らないといけないと思います。全国の番組が放映された後に新しく問い合わせやパッケージの購入はありましたが、県外の企業さんばかりでした。県内、市内からはあまり問い合わせがなく、自分たちのPR不足を反省することになりました。


ーナイスパスをもっと広げていくには何が必要でしょうか?

伊藤:
まずはナイスパスを知っていただくことにつきます。なぜなら、お客様に紙袋を持ってきていただくというのが活動の「原資」だからです。紙袋の調達がうまくいくかが一番大切ですし、紙袋を持ってきてくださる方は、ナイスパスを使ってもいいという方でもありますので、回収できるようにするのが第一歩になるかと思います。
市民に圧倒的に周知されていれば、店舗がナイスパスを導入するハードルも下がっていくと思っています。
最近はマルシェなどのイベントでショップバッグとして使っていただいています。古着を買ってナイスパスで持ち帰ってもらうこともあります。


ー導入した企業さんで、うまく行っているところもあれば、定着しなかったところもあると伺いました。ナイスパスに興味がある企業さんもあると思いますので、うまくいくかどうかの分岐点があるなら教えてください。

伊藤:
社内浸透ができているか、できていないかの違いだとわかっています。紙袋の回収を呼びかけるのは社員さんやスタッフさんです。スタッフさんがうちの会社はどういう理由でナイスパスをやっているのか、ナイスパスの取り組みへの理解と共感がないと、お客様に広げていくのも難しくなります。
ですので、導入の際には、ナイスパスの社内周知を徹底していただくことが大切だと思います。

ーナイスパスがうまく回っているお店に傾向はありますか?

伊藤:
社風によりますが、体に良いものやエシカルなものを取り扱うお店はうまくいっています。これも、社内浸透とお客様に伝えることがうまくいっているからだと思います。例えば、沖縄の「暮らしの発酵ストア」さんは、お客様の協力、つまり回収がうまくいっているお店としてまず思い浮かびます。また、アパレル業界では袋がブランドだと思いますが、ココウォーク5階のKOMINKANではうまく回っています。どちらも社風、社内浸透と、お客様への声かけがうまくいっているからだと思います。

回収できるようになると、回収が集まりすぎるとか、欲しいサイズが集まらないなどの悩みも出てくるようですが…。

ー自治体の導入事例はありますか?

伊藤:
新上五島町の観光協会さんです。「五島うどんの里」にはナイスパスの特設コーナーがあり、回収も積極的に行われています。

ーナイスパスのような取り組みで、今後やってみたいと思われていることはありますか?

伊藤:
コーヒー屋なので、「カプレス」には興味があります。カプレスはコーヒーカップのリユースプロジェクトで、リユースできるカップを加盟店で洗浄して使いまわしていく取り組みです。洗って使い回すという点では、食堂にあるお箸と同じなのですが、カップはまだ浸透しにくいようです。
同じく、コーヒー屋として気になるのは、コーヒーを淹れた後の出し殻を肥料や燃料にする取り組みです。カリオモンズコーヒー1店舗だけでも、1日平均3キログラムほどの出し殻が出ます。

ー何かを加工して再利用する取り組みがある中で、ナイスパスは袋をそのまま袋として使う、加工プロセスなどが必要ない取り組みです。そういった意味でトライしやすそうですね。

伊藤:
そうなんです。ナイスパスはそのままの形で再利用するハードルが低い取り組みだと思います。シンプルで簡単だからこそ、僕らの頑張りひとつで広げられるのではないかと思います。導入しているお店の意識は、環境意識が高いように思われがちですが、僕らが始めた時の動機は、家のスペースを空けたい、クローゼットをスッキリさせたい、一石二鳥という合理的で日常的な考えからでした。環境にいいことやろう!ということではなかったのです。だから気軽にナイスパスしていただけると思います。
結果は見えた方がいいので、今後もレポート(※1)は発行していきたいと思っています。

(※1)ナイスパス初動メンバーの一人でもある重富陽介氏が、ナイスパスの効果を数値化したもの。

ー長崎市ではナイスアクションを広げるナイスピープルを増やしていこうと呼びかけています。ナイスパスも広げていくかもしれないナイスピープルな皆さんにメッセージをお願いします。

伊藤:
袋を集めるのは順調なので、NICEPASSをもっと知っていただいて、導入店が増える流れにつながればと思っています。学校などで授業で回収されることは既にあります。赤い羽の募金のように、学校で回収して近隣企業に寄付をするとか、授業で使ってもらえたら嬉しい。自治体や協力機関で共同ができたらいいなと思います。また、空港などで手荷物検査前に袋をまとめるときに、回収ボックスを設置して置けたらいいなとも思います。
ただ、紙袋を引き取っても、導入店舗が少なければ使いきれません。加盟店に着払いで発送することについては、ロジスティックに関連するCO2は他の荷物と一緒に運ばれるので実はあまり問題ではないのですが、理想は小さなコミュニティでパスがうまく回っていくことです。
僕も含め、今、消費・消耗に慣れている人のマインドセットをするのは簡単ではないと思います。もしかしたらこれからを担う子供たちの方がすんなりと受け入れられるのかもしれませんが、肩肘はらずにできること」をできる形で続けていきたいと思います。

ーありがとうございました。

家も片付いて、捨てる罪悪感も無くなる。お店も新品の紙袋を仕入れる費用が抑えられるみんながハッピーな取り組みナイスパス。自然に発生し、無理なく続けられる取り組み。パスがたくさん回っていくよう、長崎市のナイスピープルのみんなで取り組んでいきましょう。