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お客さんに寄り添ったお惣菜を提供したい。

お客さんに寄り添ったお惣菜を提供したい。

惣菜屋 深田総菜 深田樹里さん・深田伸治さん

400年の歴史がある中通り商店街に、アンティーク家具が並ぶ惣菜店「深田総菜」があります。ここでは、一つひとつの食材や調味料にこだわり、季節にあわせた調理法で、お客さんに寄り添った食を提供しています。現在、食品ロスなど食に関する様々な社会問題がある中、深田総菜の食に対する考えを、お店を営む深田樹里さん、深田伸治さんに、長崎大学経済学部山口研究室の学生3人(黒木、近藤、松浦)が伺いました。

惣菜屋 深田総菜 
深田樹里さん(写真左)・
深田伸治さん(写真右)

 

長崎大学経済学部山口研究室
近藤・黒木・松浦

 

手作りパンを作る伸治さん

―早速ですが、お惣菜屋さんとしてお店を始められたきっかけを教えてください。

樹里さん:
「子どもや家族に安心安全なごはんを食べてもらいたい」という想いから、このお店を始めました。私は2人子どもがいますが、下の子が生まれてから、家族の料理のほかに離乳食も作って、結構大変だなって思ったんですよ。そんな風に大変で困っている人は世の中にきっといるはずだから、そこのお手伝いがしたいと思って、このお店を始めました。

―お惣菜のこだわりを教えてください。

樹里さん:
お店を始めた当時から、食材や調味料にこだわりを持っています。特に食材に関しては、雲仙や島原、西海といった地域のさまざまな農家さんから仕入れています。例えば、卵を仕入れている雲仙の桑田自然農園さんでは、解放された鶏舎で鶏たちがストレスなくのびのびと生活できるようにし、薬剤に頼らず自然由来のエサを使って飼育しています。その結果、鶏たちは健康的に育ち、殻が固くてコクのある美味しい卵を産んでくれるんです。

自然環境や命を大切にしている方々がこだわって作り、育てる過程やその人の顔が分かる食材を使って、心からホッとしていただける食をお客さんに提供していきたいですね。

また、自分の出来る範囲で、無理をせずに営業することも大事にしています。以前は週6日、毎日メニューを変えて営業していましたが、今は長く続けていくために、週4日営業(火・水・金・土)で、1週間に2回食事のメニューを変えていますね。

―お店として持続して営業していくためにも、工夫をされているんですね!

樹里さん:
そうですね、営業を6日間にしていた当時、まだ子どもが幼かったのに、仕事の比重が大きくなっていました。そんな矢先に娘が病気にかかってしまいました。それでも、働いて家族を養っていかないといけないという思いがあったので、苦渋の決断で営業日数を変えました。その当時は悩みましたが、今では家族との時間が十分取れて、自分に余裕が生まれてきて、とてもいい選択だったと感じています。やっぱり、自分たちの頭や体が疲れていると、提供しているお惣菜にも影響してしまうので、自分たちがクリアであることはとても大事だと思います。

―そんな深田さんの想いやこだわりに共感するファンのお客さんがたくさんいらっしゃると思いますが、どんな方が来られますか?

樹里さん:
普段お料理を家族に作られている方が、少し気を抜いて休みたいときに利用してくださいます。また「家族においしくて健康的なものを食べさせたい」というお客様も来て下さっている印象です。

一人住まいのお客様も多いです。一人だとついついコンビニ弁当になったり、ごはんとみそ汁などの簡単な食事になりがちですが、やっぱり誰かが作ってくれたものは体に入るとちょっとほっとするものだと思います。ほっとする食を求めている方に届いているなぁという感じはしています。

―お惣菜という商品の場合、需要が少なかった際にせっかく作っても廃棄になってしまうこともあると思います。今は大量廃棄が社会課題のひとつになっていますが、深田総菜さんでの食品ロス対策はありますか?

樹里さん:
こんな感じでお惣菜を真空パックに入れて、15日間日持ちできるようにしています。

小長井産あさりと豆腐のしぐれ煮など、密閉保存されたお惣菜
モロヘイヤとエビの中華スープ

樹里さん:
真空パックにすることで、週の頭で余ったお惣菜を週末に提供することができます。ありがたいことに週末に売り切れることが多いので、作ったものを廃棄することはほとんどないです。県外にお住まいのお子さんに10日に1回送っているお客さんもいらっしゃいますが、もしかしたら、日持ちすることと関係しているのかなって思いますね。

伸治さん:
全て手作業なので作れる量は限られますが、自分たちが無理なくできる範囲の量を作っています。利益を求めて多く作ってしまうと、どうしても捨てるものが出てきてしまう。だから、なるべく流行りに流されずに、自分たちが作りたいもの、お客さんが望むものを考えて、作れる量だけ作るということを大切にしていますね。

―「流行りに流されない」というのはとても大事ですね。昨今、SDGsに向けて企業で様々な取り組みが行われていますが、SDGsが目的化しているところもあるように感じます。

伸治さん:
私たちもそういった企業の方から恩恵を受けていますので、その取り組み自体を真っ向から否定しようとは思いません。ただ、現状として、SDGsやエシカルな取り組みなどを企業や社会でしていく際には、新しい体制や仕組みを作っていかないといけないという風潮があるように感じます。そうじゃなくて、企業、そして社会が「今あるもの」を大事にしていくことが重要ではないかと思いますね。

―私たちもこのような取材をする中で、いろんなお話を聞いてきましたが、どのお店も本業の中で自然や社会に配慮した経営をされている印象を持っています。そして、企業、ひいては地域社会が持続するために、まずは人や社会を想った経営が改めて大事だと感じました。最後になりますが、これからお惣菜をどんなお客さんに届けていきたいか教えてください。

樹里さん:
5年ほど前に娘が大きな病気にかかり、病院に通っている時のことです。看病を最優先にしていたので、日々の自分の食事はただ空腹を満たすだけになって、さっと済ませていました。他にも同じようなご家族がいらっしゃいました。
退院後、その時の経験を元に、手軽に飲めて栄養価の高いスープを作りました。しっかり食事で栄養をとって元気をつけたい方に、うちで作ったスープが届けばいいなと思います。これからは、できる人ができることをして、必要としている人に食が届く、そんな循環する仕組みができれば理想ですね。

学生のあとがき
取材中、たくさんのお客さんがご来店され、お二人と楽しく話されていました。その会話の様子から、深田総菜のお客様は、お惣菜だけでなく、心が「ホッとする」時間を求めて来られている印象を受けました。地域の大事なコミュニティになっていると感じました。また、食材や調味料へのこだわり、想いを伺う中で、私たち消費者へ食が届くまでに関わっている方々や、私たちを取り巻く食の問題について考え、行動していきたいと強く思いました。

インタビュアー:長崎大学経済学部山口研究室
この研究室では、誰もが豊かに暮らし続けられる地域社会をつくることを目的にしています。地域経済学を基に、学内外で知識の習得から実践にいたる研究活動を展開することで、遠い時間、広い空間、多様な人を想う心と考える頭を持って行動できる人材の育成を目指しています。